心臓病の診療について

心臓病というのは初期には明らかな症状があらわれにくく、症状が認められる頃には一気に悪化することがあり、すでに手遅れになっていることも多くあります。

犬の心臓病で最も多い「僧帽弁閉鎖不全症」は特に小型犬で多くみられますが、症状が出てから投薬治療を開始した場合、半年後の生存率が約50%だという統計が出ています。

また、別の報告では心不全を起こすと1年以内に半数以上が亡くなり、2年以内にほとんどの子が亡くなるとも言われています。

こんなに恐ろしい心臓病ですが、発見の鍵となるのはいつもの診察時に行う「聴診」です。

その理由は、心臓の異変が心雑音や不整脈という比較的発見されやすい所見から出始めるからです。

犬・猫のどちらにおいても非常に有用な検査になります。

もし心雑音が聴取された場合には、心臓の検査を行うことで病気のステージを分類し、現時点での対策・その後の治療や検査間隔を決めることを強くおすすめします。

心臓病は早期発見・早期治療することで、より長く健康に生活することができます(心雑音があっても治療が必要ないこともありますが、それを決めるためには検査が必要となります)。

心臓病の検査とは?

心臓病が疑われたら、次の検査が必要となります。

・聴診

・血圧測定

・血液検査

・心電図検査

・レントゲン検査

・超音波検査

どの検査も体への負担が少なく、通常の診察で行うことができるため、状態やステージに合わせて組み合わせながら行っていきます。

また、心拡大(心臓は負担が強くなると腫れあがる)は超音波検査とレントゲン検査でのみ評価ができるため、治療の必要性を判断する上では必須の検査となります。

この中でも超音波検査は最も重要な検査であり、リアルタイムで心臓の中を確認することができます。

弁の形態や動き、4つの部屋の大きさ、血流の方向や流れる速度を測ることができます。

「以前から心雑音はあるけど、検査も治療も特に何もしていない」と言って、転院されてくる方も少なくはありませんが、先に述べたように症状が出た時には手遅れになっている可能性があります。

「最近、元気がないけど年かな?」「咳込むことが増えたなぁ」などの症状は、心不全の危険が迫っているかもしれません。

ほんの些細な変化でもお気軽にご相談ください。

健康な心臓の超音波画像

 

心不全の症例

心臓の左側(LA、LV)が大きく腫れあがっている

健康な心臓(別の角度から)

 

心不全の症例(別の角度)

健康時と比較して左心房(LA)が大きく腫れている

※治療の指針となるステージ分類

犬の僧帽弁閉鎖不全症は、アメリカ獣医内科学会(ACVIM)が定めたガイドラインによって各症例のステージ分類が行われており、それに基づいて治療を検討します。

スクロールできます
ステージ心疾患分類臨床症状治療の必要性
A今後、心疾患になる可能性あり
好発犬種(チワワ、シーズー、マルチーズ、ヨークシャー・テリアなど)は、検診を通して疾患の早期発見に努める
なし×
B1心雑音(+)、心拡大(-)、心不全(-)なし×
B2心雑音(+)、心拡大(+)、心不全(-)咳が出始めることがある
C1~3心不全にかかったことがある、または現在、心不全の状態日常的に咳や疲れやすさが出る
急性心不全では呼吸困難
D内科的治療で反応しない、難治性心不全を起こしている酸素室から出ることが難しく、基本的に入院治療になる

聴診で発見できるのはステージB1以降です。

ステージB1で発見できていれば、定期検査や日常生活での対策を十分にとることができます。

少なくともステージB2までに発見することが理想です。

もしかして心臓病? 自宅でできるチェック方法

「心臓病」だと疑われる状態の時、またはすでに診断された時にどのように行動すればいいかチェック項目を作ってみましたので、ご心配な方は目を通してみてください。

1. 心雑音をチェックする

心臓の雑音は聴診器で聞くことが基本となります。

でも、ペットを抱っこしている時にその音が聞こえる方もいるようです。

表現は様々ですが、「ザーッ、ザーッ」「シャーッ、シャーッ」「ザザッ、ザー」などと聞こえることがあります。

もし分からなければ、病院に行って聴診をしてもらいましょう。

2. 心拍数を測る

安静時における成犬の1分間の心拍数は、小型犬で60〜80回、大型犬で40〜50回くらいです。

子犬は成犬の倍になり、220回以下であれば問題ないといわれています。

犬で最も多い心臓病である「僧帽弁閉鎖不全症」は小型犬に多いので、1分で80回を上回るようであれば気をつける必要があります。

心拍数の測り方

胸の心臓の位置に手のひらか耳を当てて、1分間に何回鼓動を感じるか数えます。

できるだけ安静時が望ましいので、しばらく抱っこして落ち着いてから計測しましょう。

1分が難しければ、15秒だけ数えて4倍してもOKです。

3. 呼吸数を測る

呼吸数と心不全には密接な関係があり、心臓の状態が悪くなってくると呼吸数は上昇します。

安静時における成犬の呼吸数は、小型犬で1分間に20回前後、大型犬では15回位です。

30回を超えると異常なサインで、40回を超えた時は心不全を示す危険なサインとなり救急対応が必要だと思われます。

呼吸数の測り方

呼吸も安静時に測ります。

理想は寝ている時、または伏せの姿勢でボーッとしている時です。

「スー・ハー」という呼吸音を1回として数えます。

音が聞こえにくい時は、胸が膨らむ回数でもOKです。

興奮した時や運動をしたあとに舌を出して「ハァハァ」する荒い呼吸は、パンティングという体温を下げるための行動で問題のないケースがほとんどです。

心臓病の苦しさと、パンティングの区別

犬の姿勢を見るとわかります。

呼吸が苦しくて「ハァハァ」している時はお座りの姿勢が多いですが、パンティングの時は立っていることが多いです。

わかりづらい時は、部屋の温度を下げて涼しくしてみるのも1つです。

4. 食欲の変化をチェックする

犬も体調が悪くなれば、食欲が落ちます。

さらに、食欲減退と共にもう一つ特徴的な症状が偏食です。

偏食とは大好きなものを急に食べなくなり、目新しいものだけをよく食べる。

少しするとまた違うものを食べたがるといった傾向のことです。

また、食欲の変化とともに、急激に体重が落ちている場合も注意が必要です。

5. 被毛や皮膚の状態をチェックする

血の巡りが悪くなると被毛がパサパサ・ゴワゴワしたり、脱毛がみられることもあります。

特にお腹と背中の脱毛が多く咳に加えて脱毛があれば、心臓の状態はかなり悪化していると考えられます。

この時期には筋肉も落ちてくるので、全体的に虚弱な外見になります。

また、唇や舌、歯茎などの粘膜も確認してください。

粘膜が青白い、または紫色の状態であればチアノーゼを起こしている可能性があります。

これは酸素が足りずにとても苦しい状態を示しており、呼吸数が増加していれば救急対応が必要だと思われます。

6. 散歩の様子など、ペットの行動を観察する

心不全の症状に「運動不耐性」というものがあります。

心臓に負担がかかり、疲れやすくなった状態です。

「散歩の時間が短くなる」「散歩中に疲れやすい」「走ったり遊んだりすると、息が切れやすい」などが分かりやすい症状です。

若い頃にできていたこと(玄関へのお迎え、尾を振って甘える、家ではずっとくっついて歩く、掃除機への攻撃など)ができなくなったというのも心不全を疑える症状かもしれません。

1~6をチェックして症状が当てはまるようでしたら、病院にてご相談ください。